委ねられた生徒の一人が、或る学課がまるで出来なかつた時に、指導委員《アウディートル》を買収して採点簿に甲を入れさせようと思つて、バタを塗つた揚煎餅《ブリーン》を紙にくるんで教室へ持つて来たのだ。イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチは公明な心の持主だつたが、をり悪しくその時はひどく空腹だつたため、この誘惑に打ち克つことが出来なかつた。彼は揚煎餅《ブリーン》を受け取ると、本を前に立てかけておいてムシャムシャやり出したが、ひどくそれに夢中になつてゐたものだから、不意に教室の中がまるで死んだやうにしいんと鎮まり返つたことにも気がつかなかつた。彼がハッと我れに返つた時には、すでに粗羅紗の外套の袖口からぬつと出た怖ろしい手が彼の耳を掴んで、教室の真中へ引きずり出してゐた。『揚煎餅《ブリーン》をこちらへお出し! お出しと言つたら、この碌でなしめ!』さう言ふなり、怖ろしい教師はバタつきの揚煎餅《ブリーン》を指で摘んで、窓から外へ投げ棄てた。そして運動場を駈け※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてゐる児童たちに向つて、それを拾つちやならんぞと厳しく禁じておいてから、すぐに
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