は、やはり同じいかつい手でウォツカを一杯もつて来てやる。彼女はほとんど同時に、小言もいへば絲も染める、台所へも飛んでゆく、濁麦酒《クワス》を拵らへる、蜂蜜のジャムを煮るで、まる一日ぢゆうかけ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて、何処ひとところとして顔出しをせぬ処がない。その結果、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチの、この小さな所有農園
もちむら》は、最近の人口調査によれば十八人の農奴から成り立つてゐたが、まつたく文字どほりに繁栄してゐた。そのうへ、かの女は熱烈に甥を愛するのあまり、彼のために営々辛苦して、零砕な金まで貯蓄してゐた。
故郷へ帰ると同時にイワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチの生活はがらりと一変して、それまでとは全く別個の軌道をとつて進んだ。恰かも彼は生まれながらにして十八人の農奴の村を監理するためにつくられてゐるかの観があつた。当の叔母も、まだ家政の全般に亘つては彼に手出をさせなかつたけれど、ゆくゆくはこの甥が申し分のない一家の主人《あるじ》になるに違ひないと信じてゐた。※[#始め二重括弧、1−2−54]あれは
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