は、男のやうなその手で、彼の房髪《チューブ》をひつ掴んで毎日々々引つぱりまはしたといふだけで、ほかにどういふ手段を用ゐたでもなしに、その男をば、人間といふよりは寧ろ黄金そのものとでも言ふべき優秀な人物に創りかへてしまつたものだ。彼女の背長《せたけ》はほとんど巨人のやうで、またそれに全くふさはしい肉つきと腕力とをそなへてゐた。天が彼女に、ふだんは焦茶いろの細かい襞《ひだ》をとつた婦人服《カポート》を身に著け、復活祭と自分の命名日《なづけび》には赤いカシミヤのショールを纒ふやうに運命づけたのは、大きなあやまりであつた。彼女にはむしろ、竜騎兵式の口髭と、長い騎兵靴とが何よりもふさはしかつたのだ。そのかはり、彼女のすることなすことは、一々その外貌にまつたく似つかはしく、舟を漕がせれば、どんな猟師もかなはないくらゐ巧みに櫂をあやつるし、野禽《とり》も射てば、草刈人夫も厳重に見張る。瓜畠の甜瓜の数は一つのこらず憶えてゐる。うちの堰堤《つつみ》の上をとほる荷馬車からは五|哥《カペイカ》づつの通行税を取る。木登りをして梨を揺り落す。油を売る懶け者の奉公人を、その怖ろしい手で打擲もするが、よく働らく者に
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