スクニャア》には灰色の塵のやうに水玉が跳ねかかつてゐる。
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塩水湖《サリョーノエ・オーゼロ》 黒海沿岸の湖で、水に多量の塩分を含むところから、この名がある。
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 ドニェープルの只中から望む、高い山々や、広々とした草地や、緑の森の眺めはまことに美しい! その山は、山に見えない。それには山麓といふものがなく、下部《した》も、上部《うへ》と同じく嶮峻な峰であり、その上方にも下方にも高く空が展がつてゐる。丘の上にある森も、森ではない。それは森の大入道の尨毛の頭に生えた髪の毛だ。その首の下部《した》には頤鬚《あごひげ》が水に洗はれてをり、頤鬚《あごひげ》の下も、頭髪《かみのけ》の上も高い青空だ。また草原も、草原ではなく、それはまんまるな空の中腹をとりまく緑の帯で、上の空にも下の空にも、それぞれ月がかかつてゐる。
 ダニーロは辺りには眼もくれず、自分の若い妻をじつと眺めてゐた。「いとしい妻、カテリーナ、お前は何をふさぎ込んでゐるのだ?」
「まあ、ダニーロ、あたしふさぎ込んでなぞゐませんわ! あたしは、あの不思議な魔法使《コルドゥーン
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