をそそぎ、両の眼が怪しく閃《きら》めいた。「父親がわが娘《こ》の監督《みはり》をせずに誰がするのぢや!」と彼は口の中で呟やくやうに言つた。「ぢやあ、お主に訊くが、夜更までいつたい何処をうろついてをつたのぢや?」
「ああ、そのことなんで、お父《とつ》つあん! そのお訊ねに対する返辞なら、かう申し上げるだけで沢山でせう――あつしやあね、もう疾《とう》の昔からむつきの厄介にはなつてゐませんよ。馬の背に跨がる心得もあり、長い利劔《わざもの》を手にするすべも弁へ、まだその上に若干のたしなみもある……何をしようと、ひとに憚るところはありませんのさ!」
「さては、ダニーロ、お主は喧嘩を売る気だな! ひとの眼を盗む奴の肚には得て悪だくみがあるものぢや。」
「何とでも好きなやうに思ひなさるがいい。」と、ダニーロが言つた。「私には私の考へがある。お蔭で、一度もまだ後ろ暗いことをした覚えはない。常住、正教と祖国のために身を持して来たつもりだ。そんじよそこいらの悪党みたいに、われわれ正教徒が悪戦苦闘してゐる間ぢゆう、とてつもない処をうろつき※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてゐて、いい程たつてから、
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