高い大空を眺めながら、哥薩克|男子《をのこ》の骨の髄まで爽々しく浸みとほる冷たい夜気にブルッと身震ひを覚えるのが彼等には何より快いのだ、伸びをして、夢見心地で何か呟やきながら、彼等は一服喫ひつけてから、温かい皮裘《コジューフ》にひしと身をくるむのである。
前日の歓楽の疲れから、ブルリバーシュが眼を醒ましたのはもうかなり遅かつた。彼は起きあがると片隅の腰掛に坐つて、新らしく交易した土耳古刀を磨きはじめた。一方、カテリーナは金絲で絹の手巾《ハンカチ》に刺繍《ぬひとり》をしにかかつた。
そこへ突然、南蛮渡りの煙管を銜へて、むつつり渋面をした、カテリーナの父親が入つて来て、娘の傍へ近づきざま、昨夜《ゆうべ》はどうして、ああ帰りが遅かつたのだと厳しく詰問しはじめた。
「阿父《おとつ》つあん、そのことなら、カテリーナよりも、この私に訊ねて頂きませう! 女房ではなく、良人が責任を負ふ。それがわれわれのならはしですから、どうか悪く思はないで下さい!」と、自分の手は休めようともせずに、ダニーロが言つた。「どこかの異端の国では、多分そんなならはしはないかも知れませんがね。」
いかつい舅の顔は赫つと朱
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