入れる壺の類が並んでゐる。さういふ物のあひだには、銀製の台附洋杯だの、金を鏤ばめた酒杯などもあるが、それは、贈物として貰つたもの以外は、みな戦利品である。棚の少し下には高価な小銃や刀劔、拳銃、投槍の類が懸つてゐる。それらは韃靼人や土耳古人、波蘭人等から有無をいはさず分捕つた品で、従つてぼろぼろに刄がこぼれてゐる。さうした品々を眺めると、ダニーロにはまるで符牒でも見るやうに、自分が敵と渡り合つた時の有様が思ひ出されるのであつた。壁の裾には滑らかに削つた樫の腰掛が取りつけてあり、それに近く、寝棚《レジャンカ》の前には揺籃が、天井に打ちつけた環に、紐をとほして釣つてある。居間の床は全体が粘土の敲土《たたき》で、滑らかに塗り固めてある。ダニーロと妻とは腰掛の上に、老婢は寝棚《レジャンカ》に眠り、揺籃の中ではいたいけな幼子がすやすやと寝息をたて、床《ゆか》の上にはつはものどもが押しならんでごろ寝をしてゐる。だが、哥薩克にとつては寧ろ、自由な蒼穹《あをぞら》の下なる平地で寝る方が好ましい。柔かい羽根蒲団は彼等に用がない。新鮮な乾草を枕に、青草の上に長々と手足を伸ばすのだ。半夜めざめて星屑の散乱する
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