だしぬけに、他人《ひと》の蒔いた麦を喰ひ潰しに戻つて来るやうな手合とは、チトわけが違ふのだ。そ奴らと来ては、改宗者よりも劣りで、神聖《あらたか》な神の教会を覗かうともしくさらぬ。そんな奴らこそ何処をうろつき※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてゐたのか、糾明せずばなるまいて。」
「えい、哥薩克! 知つてをるか……俺の射撃はあまり上手ではないが、百間以上はなれて心の臓を撃ち抜くことが出来るのぢやぞ。あまり香ばしい手の内でもないが、人のからだを粥に炊く輾麦より細かく截りきざむくらゐは、いと易いことぢや。」
「言ふにや及ぶ。」かう叫びざま、ダニーロは勇壮に長劔をかざして宙に十字を切つた。それはさながら、何のために劔を磨いてゐたかを、ちやんと知つてゐたといふ面持であつた。
「あなた!」と、良人の腕を抱《かか》へて、ぶらさがるやうにしながら、カテリーナが甲高く叫んだ。「まあ、とんでもない、あなたは誰に刄《やいば》を向けようとなさるのか、落ちついて、よく御覧なさいませ! 阿父さん、あなたもあなたです。その雪のやうな白髪にも恥ぢず、まるで無分別な若者か何ぞのやうに、とりのぼせておしまひになつ
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