来ようなどとは思はなかつたらうが? ほんとに思ひがけなかつたぢやらう? ひよつとわしが来て邪魔ではなかつたかな?……」チューブはかう言ひながら、その顔に浮々した仔細らしい表情をうかべたが、それは予め彼が鈍重な頭をしぼつて、何かぴりつとした、とつときの冗談を飛ばさうものと工夫をこらしてゐることを物語つてゐた。「多分お前さんは、今ここで誰かといちやついてゐたんぢやらう!……おほかた、もうお前さんは、誰かを隠《かく》まつてゐるのだらうが、ええ?」かうした咎め立てをしてすつかり有頂天になりながら、チューブはソローハから懇ろにされるのはひとり自分だけだと、内心すこぶる得意らしく、ニヤリと笑つた。「ぢやあ、ソローハ、火酒《ウォツカ》を一杯御馳走にならうかな。忌々しい凍《い》てでな、この咽喉《のど》がこごえてしまつたやうな気がするて。どうもはや、降誕祭の前夜がこんな晩と来ちやあ! あの酷い吹雪といつたら、なあソローハ、まつたくどうも、恐ろしい吹雪ぢやつたよ……。ちえつ、手が硬ばつてしまつたわい。裘衣《コジューフ》のボタンもはづせやせん! ああ恐ろしい吹雪ぢやつた……。」
「あけて呉れ!」さういふ声が
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