、だしぬけに戸口にノックの音がして、哥薩克のチューブの声が聞えた。
「えつ、南無三、邪魔がはいりをつたわい!」と、補祭はびつくりして叫んだ。「わしの役柄で、こんなところを見つかつて堪るものか?……もしコンドゥラート神父の耳へでも入つたことなら……。」
 だが、補祭の恐れはそれではなくて、何より自分の女房にばれはせぬかと懸念したのだ。彼の女房といへば、それでなくてさへ恐ろしい腕力を振つて、たつぷりあつた彼の長髪《かみ》を引きむしつてほんの僅かにしてしまつた女なのだ。「親切なソローハさん! 後生だよ。」と、全身をわなわな震はせながら補祭は訴へるのだつた。「あんたの善根は、ちやうど、ルカ伝にも言つてある、第十三章……十三……叩いてゐますよ、ほんとに叩いてをる! ああ、わしをどこかへ隠《かく》まつて下されい。」
 ソローハはもう一つ別の袋の炭を手桶へぶちまけた、と、さして大柄でもない補祭がその中へ這ひ込むなり、チョコナンとその底に坐つたので、まだ上から炭の半俵やそこいらは入れることが出来るくらゐだつた。
「今晩は、ソローハ!」と、家の中へ入りざまチューブが声をかけた。「おほかたお前さんはわしが
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