押しかけて、オクサーナをとりまいた。わめき声や高笑ひやおしやべりで、鍛冶屋の耳は聾《つんぼ》になつてしまひさうだつた。一同はわれ勝ちに何か彼かオクサーナに珍談を語つて聞かせたり、背中の袋をおろして、もうかなり流しで貰ひ集めた白麺麭や腸詰や団子などの品さだめをしたりした。オクサーナはすつかり上機嫌で、にこにこしながら、誰彼なしに相手にしては無駄口を叩いて、ひつきりなく笑ひころげた。
 一種の忌々しさと妬ましさを覚えながら、鍛冶屋はさうしたはしやぎを眺めてゐた。そして自分も大好きな流しが、この時ばかりは呪はしいものに思はれた。
「あら、オダールカさん!」と、陽気な美女が娘たちの中の一人に向つて叫んだ。「あんた、新らしい靴を穿いてるわね。まあ、なんて素晴らしい靴でせう! 金絲《きん》の刺繍《ぬひ》がしてあつてさ。あたしなんかには、誰あれもこんな素敵な靴なんて買つて呉れやしないわ。」
「悲観することあないよ、おれのだいじなオクサーナ!」と、鍛冶屋が口を出した。「おれがお前に高貴な令嬢方も滅多にはいてゐないやうな靴を手に入れてやるから。」
「あんたが?」さう、横柄にチラと彼を眺めて、オクサーナが
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