だ月を入れて帯皮の脇に釣つてゐた胴籃が、どうかしたはずみで煖炉《ペチカ》の内側にひつかかつて口をあいた。そのすきに月は得たりとばかりに、ソローハの家の煙突を通りぬけて、するすると空へ舞ひあがつた。下界は一時にぱつと明るくなつて、吹雪などはまるで無かつたもののやうに、あたりは鎮まりかへり、雪は広々とした銀の野と輝やき、さながら一面に水晶の星でも撒いたやうに見えた。寒気も幾らか緩んだやうにさへ思はれた。若者や娘たちの群れが、袋を担いで現はれた。歌声が響き出して、流しの群れの集《たか》らぬ家は稀れであつた。
 麗らかに月が輝やいてゐる! こんな夜、キャツキャツと笑つたり歌をうたつたりする娘たちや、賑やかに笑ひさざめく夜にだけしか思ひつくことのできない諧謔《じようだん》や駄洒落を、やたらに連発する若い衆たちの間へ割りこんで揉まれる面白さは、ちよつと口では説明が難かしいくらゐだ。ぴつたり躯《からだ》をくるんだ裘衣《コジューフ》はあつたかく、寒気のために頬の色もひときは生き生きと冴えて、悪巫山戯に至つては、まるで後ろから悪魔に尻押でもされてゐるやうだ。
 袋を手に持つた娘たちの群れはチューブの家へ
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