よつとすれあ、嬉しい首尾にならねえにも限らんて……。ほんに、あの忌々しいど鍛冶屋め、おつそろしく酷く打ちやあがつて!※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 そこでチューブは、背中をさすりさすり、別の方角へと歩きだした。眼の前に自分を待つてゐるソローハとのあひびきの楽しさに、いくらか痛みも忘れて、吹雪の唸りにも負けず往来ぢゆうにピシピシ音をたててゐる酷い凍《い》てをさへ身に感じなかつた。口髭といはず顎鬚といはず、お客の鼻を容赦なくつまみあげて石鹸を塗りたくるどんな理髪師よりも素早く、吹雪のために真白にされてしまつた彼の顔には、ともすれば、くすぐつたいやうな表情が浮かんだ。だが、卍巴と降りしきる吹雪が視界を遮ぎつてしまつたため、なほも長い間、ときどき立ちどまつては背中を撫で撫で、『忌々しい鍛冶屋めが、こつぴどく打ちやあがつて!』と、ブツブツ呟やきながら道を辿るチューブの姿は、もはや見ることができなかつた。

        *        *        *

 さて、あの長い尻尾と山羊髯をもつたくだんの敏捷な洒落者が、いつたん煙突から飛び出して行つて、再び煙突へ戻つて来た時、彼が盗ん
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