入つて行つた。一方、チューブには道が分つたやうに思はれたので、立ちどまつて声を限りに呼び立ててみたが、教父がさつぱり姿を見せないので、自分だけひとりで帰ることにした。少し先きへ進むと、彼の眼には自分の家が見えだした。家のぐるりにも屋根の上にも雪が堆《うづた》かく積つてゐた。彼は寒さに凍えた手をあげて、トントンと戸を叩きながら、娘に向つて戸を開けろといかつく呶鳴つた。
「此処にいつたい何の用があるんだ?」と、そこへ出て来た鍛冶屋が、威猛だかに呶鳴りかへした。
チューブは、鍛冶屋の声を耳にして、少し後へさがつた。※[#始め二重括弧、1−2−54]おやおや、これあおれの家ぢやなかつたわい。※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、彼は口の中でつぶやいた。※[#始め二重括弧、1−2−54]鍛冶屋めがおれの家へ立ち寄る訳はないからな。待てよ、よく見れば鍛冶屋の家でもないわい。いつたい、これあ誰の家だらう? なあるほど! さつぱり見当がつかねえと思つたら、なあんだ! これあ、あの、近ごろ新嫁を貰つたばかりの、跛《びつこ》のレヴチェンコの家ぢやねえか。おれのうちに似た家は奴さんの家より他にやあねえ筈
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