は吹雪の起つたのが結句うれしかつたのだ。補祭の家まではまだ、二人がそれまでに辿つて来た道のりの八倍もあつた。歩行者たちは後ろへ方向《むき》をかへた。風が項《うなじ》へ吹きつけるばかりで、渦巻く吹雪をとほしては何ひとつ見わけることも出来なかつた。
「待ちなよ、教父《とつ》つあん? どうも見当が違つてるやうだよ。」と、少し後へ遅れてチューブが言つた。「おいらにやあ家が一軒も見えねえ。ちえつ、なんちふ吹雪だ! ちつと脇へそれて道を探してみて呉んなよ、俺らはその間にこつちをさぐつて見るべえからよ。こねえに吹雪の中をうろうろさせられるちふのも、てつきり悪魔の仕業に違えねえだよ! 道が目つかつたら忘れずに呼んで呉んろ。ちえつ、悪魔めが、なんちふ雪塊《ゆき》を吹きつけて、目潰しを喰らはしやあがるこつた!」
だが、道は分らなかつた。脇へそれた教父は、深い長靴ばきの足で前へ行つたり後へ戻つたりしてゐたが、最後にひよつこりと酒場の前へ出た。酒場を見つけてすつかり有頂天になつた彼は何もかも忘れてしまつて、からだにこびりついた雪を払ひ落しながら、往来に残した仲間のことなどは、てんで心にもとめず、表口から中へ
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