ッチ(言ふまでもなく、それは梵妻《おだいこく》の不在の時に限るのだが)や、哥薩克のコールニイ・チューブや、カシヤン・スウェルブイグーズが彼女の家へせつせと通つたものだ。それに、これは彼女の最も名誉とすべき事柄であるが、彼女はこの連中を実に巧みにあやなす術《て》を心得てゐたので、彼等のうち誰ひとり、自分に競争者があらうなどとは夢にも考へてゐなかつた。信心深い百姓にもせよ、自から貴族と名乗る哥薩克にもせよ、頭巾の附いたマントを著込んで、日曜日にお寺へ詣るとか、または天気が悪くて酒場へでも行くとかすれば、ついでにソローハのところへ立ち寄つて、凝乳《スメターナ》をべつとりつけた肉団子《ワレーニキ》を食ひながら、煖かい家の中で、おしやべりで愛想のいい女主人と喃語《むつごと》を交はすのが悪からう筈はない。その癖、貴族連は、酒場へ行く前にわざわざまはり道をしておきながら、とほりすがりにちよつと立ち寄つただけで、などと言ひわけをしたものだ。また祭日などにソローハが派手な毛織下着《プラフタ》に、南京織の下袴《ザパースカ》を穿き、その上にうしろに金絲で触角《ひげ》の形の刺繍《ぬひ》をした青いスカートを著け
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