て、お寺へ出かけて、右側の頌歌席にほど近く立たうものなら、補祭はさつそく咳払いをしたり、そちらへ向けて眼まぜをしたりするのが常で、また村長は口髭を撫でたり、房髪《チューブ》を耳に捲きつけたりしながら、隣りに立つてゐる男にかう囁やいたものだ。『へつ、何ちふがつちりした好え女だらう! 凄え女だ。』ソローハはめいめいに会釈をした。するとこちらは、自分だけに女が挨拶をしてくれたのだと思つて悦に入つたものである。
しかしながら、他人《ひと》ごとにおせつかひ好きな人はたちどころに、ソローハが誰よりも哥薩克のチューブに対して一段とちやほやしてゐることに気がつくだらう。チューブは鰥《やもめ》だつた。彼の家の前にはいつも八つの穀堆がならんでゐた。四匹の頑丈さうな去勢牛が、いつ見ても納屋の籬垣《ませがき》から往還へ首を突きだして、戸外《そと》をとほる牝牛の小母さんや、肥つた牡牛の小父さんの姿を見つけると、もうもうと啼き立ててゐた。顎鬚を生やした山羊は納屋の屋根の上へ登つて、そこから市長の声に似た甲高い嗄がれ声を振りしぼつて、庭を横行する七面鳥をからかつたが、いつも自分の鬚にわるさをする強敵――腕白小僧た
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