この世の冬ほどには寒くない地獄で、ちやうど料理店のコック頭のやうに、白い帽子をかぶつて竈の前にたたずみながら、降誕祭の用意に腸詰を煮る女房《かみさん》のやうな満足らしい顔つきで、亡者を焙る悪魔に、厳冬の寒さのこたへるのは不思議でも何でもない。
妖女《ウェーヂマ》の方も、温かい服装《みなり》はしてゐたけれど、なかなか寒いと思つた。それで、両手を左右にひろげて、片方の足を後ろへ引き、ちやうどスキーを履いて滑走する人のやうな姿勢をとり、全身の節々をしやんと伸ばして、まるで氷の急坂を辷りおりるやうに、空中を真一文字に、わが家の煙突さして飛翔した。
悪魔もやはり同じやうにしてその後を追つた。この生きものは、*靴下を穿いたどんな洒落者よりも遥かに敏捷だつたから、煙突の口のところで自分の情婦の首つ玉へ飛び乗つてしまつたのも不思議はない。かうして彼等は、広々とした煖炉《ペチカ》のなかの、壺や瓶の間に姿を現はした。
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靴下を穿いた洒落者 往時、一般の露西亜人は靴下と称すべきものを用ゐず、ぼろ切れを足に巻きつけて長靴を穿くのが普通であつたから、靴下を穿くほどの
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