をこれ以上あてにすることがあらう?※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、鍛冶屋は胸に問ひ肚に答へた。※[#始め二重括弧、1−2−54]この女はおれを嬲つてゐるのだ。この女にとつてはおれなんざあ、錆びくちた蹄鉄ほどの値打もないのだ。しかし、それならそれで、少くとも他の奴らにおれを嘲けらせはせんぞ。おれ以上にこの女の気に入つてゐる奴が、はつきり分つたが最後、そいつに思ひ知らして呉れるから……。※[#終わり二重括弧、1−2−55]
戸を叩く音と、寒気の中につんざくやうに響く※[#始め二重括弧、1−2−54]開けて呉れ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]といふ声が、彼の思索の絲を断ち切つた。
「待て待て、おれが開けてやらう。」さう言つて鍛冶屋は立ちあがつたが、忌々しさのあまり相手が誰だらうと出会ひ頭の野郎の横つ腹に風穴をぶちあけて呉れようと思ひながら、表口へ出て行つた。
* * *
寒気がひとしほつのり、空もひどく寒くなつてきたので、悪魔は蹄のある足を代る代る跳ねあげたり、かじかんだ手を少しでも煖めようとて拳に息を吹きかけたりした。だが、
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