わり二重括弧、1−2−55]美しい蓮葉娘はかう独り言をつづけた。※[#始め二重括弧、1−2−54]あたし、とてもすんなりしたいでたちでせう。この肌着には赤い絹絲で刺繍《ぬひ》がしてあつてよ。それに頭のリボンはどうを! あんた方が逆立ちをしたつて、こんな立派な打紐を見ることは出来なくつてよ! これはみんな、あたしが世界中で一番立派な花聟と結婚ができるやうにつて、お父さんが買つて呉れたんだわ。※[#終わり二重括弧、1−2−55]ここでニッと笑つた娘は、不意に後ろを振り向くと、そこに立つてゐる鍛冶屋を見つけた……。
彼女はあつと声をあげたが、いきなり男の前に傲然と立ちはだかつた。
鍛冶屋はたじたじとなつた。
この素晴らしい美女の浅黒い顔に現はれた表情を説明することは難かしい。その面持は峻烈な色を湛へてゐたが、その峻烈さの中には、まごまごしてゐる鍛冶屋に対する揶揄の情が窺はれもした。そして微かにそれと見える、怨みをこめた紅潮が、ほのかに顔ぢゆうに溢れてゐた。それらがごつちやになつた、得もいはれぬ美しさに対しては、ただこの場合、百万遍も接吻をして呉れるより他には手の施こしやうがなかつた。
前へ
次へ
全120ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング