ィロフ ボルタワ[#「ボルタワ」はママ]県下の町で、ゴヅトワ河の沿岸に位し、毛皮の産地として有名なところ。
[#ここで字下げ終わり]

        *        *        *

「ぢやあ、教父《とつ》つあん、お前は、まだ補祭がとこの新家へは行かなかつたのかい?」と哥薩克のチューブが自分の家の戸口を出ながら、短かい皮外套を著た、痩せて背のひよろ長い相棒の百姓に声をかけた。その男の髯もぢやな顔は、もう二週間以上、よく百姓たちが剃刀を持ち合はせてゐないところから髯を剃るのに使ふ、あの鎌の破片《かけ》も当てられてゐないことを物語つてゐた。「今夜あすこで、素晴らしい酒宴《さかもり》があるだよ!」と、茲でにやりと笑顔を見せてチューブは語りつづけた。「どうかまあ、遅参にならなきやあよいがのう!」
 そこでチューブは皮外套の上からしつかり緊めてゐた帯をなほして、帽子をぐつと目深に引きさげると、煩さい野良犬を嚇すための鞭を手に握つた。だが、空を見あげて、思はず彼は足をとめた……。
「これあ、いつたい、なんちふことだ! おい見ねえ! 見ねえつたら、パナース!……」
「なんだね?」と言つて、
前へ 次へ
全120ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング