教父《クーム》も同じやうに空を見あげた。
「なんだぢやあねえや、お月さまが無くなつたでねえか!」
「はあて、面妖な! ほんに、お月さまがねえや。」
「だから、ねえつていふのさ!」チューブには教父《クーム》の相も変らぬ暢気らしさが、少し忌々しかつた。「お前にやあ、いつかうに構はなささうぢやけれど。」
「だといつて、おらにどうしやうがあるだよ?」
「これあ、てつきり、なんだよ、」と、袖で口髭を拭きながらチューブが言葉をついだ。「どこかの悪魔の奴めが――そん畜生にやあ毎朝一杯づつの火酒《ウォツカ》も呑まれなきやあええだ!――邪魔をしくさるのに違えねえだ!……ほんに、人を小馬鹿にしやあがつて……。家んなかにをる時、わざわざ窓から見れあ、殊の外にええ晩ぢやねえか! 明るくて、雪は月の光りにピカピカと光つてまるで昼間のやうに何もかもよく見えたつけが。それが一歩《ひとあし》そとへ出るとどうぢや、まるつきり眼を刳りぬかれでもしたやうでねえか! ※[#始め二重括弧、1−2−54]ちえつ、ほんとに、カチカチに干からびた黒麺麭でそん畜生の歯が残らず折れてしまへばええ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]」

前へ 次へ
全120ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング