新調しをる。事務員や、郡書記でさへも一昨年あたりは、一アルシン六十|哥《カペイカ》もする青い支那絹を買ひ込みくさつた。寺男までが南京織の夏ズボンと、縞目のある手編のチョツキを新調しをる。一口にいへば、誰も彼もが見やう見真似をしたがるのだ! いつたい何時になつたら人間は、かうした余計なことに齷齪しなくなるだらう! ところで悪魔までが矢張りさうした見やう見真似に憂身をやつしてをる処を見るのは、大抵の人々にとつては確かに面白いことに違ひない。それは賭をしてもいいくらゐだ。何より片腹痛いのは、あの見るのも恥かしいやうな不態な恰好をしてゐながら、奴さん自分をいつぱしの優男と思ひこんでゐるらしいことだ。フォマ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチの言ひ草ではないが、穢らはしいにも穢らはしい、醜悪そのもののやうなあの御面相で、情事《いろごと》に憂身をやつさうなんて、いやはやだ! だが、天も地も一様に真暗になつてしまつたので、悪魔と妖女《ウェーヂマ》とのあひだに一体それからどんないきさつが持ちあがつたかは、もはや知る由もなかつた。
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レシェテ
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