するよ。※[#始め二重括弧、1−2−54]宝玉も、黄金の鍛冶場も、陛下の皇国《みくに》全体も要りませぬ。それよりも、オクサーナをば遣はしなされませ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]つてな。」
「あんたも、ずゐぶん隅におけないわね! でも、うちのお父《とつ》つあんだつてなかなかの凄腕よ。見ていらつしやい、今にあんたとこのお母さんと結婚するから!」かうオクサーナは、狡さうに笑ひながら言つた。「それはさうと、みんなはなぜやつて来ないんだらう……。いつたいどうしたといふのだらう? もう疾つくに流しに出かける時間だのに、あたし退屈しちやつたわ。」
「あんな連中のことあ、どうだつていいぢやないか、おれの別嬪さん!」
「さうでもないわ! あの人たち、きつと若い衆をつれて来るからさ。さうしたら舞踏会だつて出来るんだもの。どんなにおもしろい話が出ることだらう!」
「そんなにお前は、あんな連中といつしよに騒ぐのが面白えのかい?」
「それあ、あんたといつしよに、かうしてゐるよりは面白いわ。あら! 誰だか戸を叩いてゐるわ。きつとみんなが若い衆といつしよに来たんだわ。」
※[#始め二重括弧、1−2−54]何をこれ以上あてにすることがあらう?※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、鍛冶屋は胸に問ひ肚に答へた。※[#始め二重括弧、1−2−54]この女はおれを嬲つてゐるのだ。この女にとつてはおれなんざあ、錆びくちた蹄鉄ほどの値打もないのだ。しかし、それならそれで、少くとも他の奴らにおれを嘲けらせはせんぞ。おれ以上にこの女の気に入つてゐる奴が、はつきり分つたが最後、そいつに思ひ知らして呉れるから……。※[#終わり二重括弧、1−2−55]
戸を叩く音と、寒気の中につんざくやうに響く※[#始め二重括弧、1−2−54]開けて呉れ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]といふ声が、彼の思索の絲を断ち切つた。
「待て待て、おれが開けてやらう。」さう言つて鍛冶屋は立ちあがつたが、忌々しさのあまり相手が誰だらうと出会ひ頭の野郎の横つ腹に風穴をぶちあけて呉れようと思ひながら、表口へ出て行つた。
* * *
寒気がひとしほつのり、空もひどく寒くなつてきたので、悪魔は蹄のある足を代る代る跳ねあげたり、かじかんだ手を少しでも煖めようとて拳に息を吹きかけたりした。だが、
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