すか?』
私は赧くなった。
『いいえ、僕の頭は、足と少しも変りがない程俗物です。僕は、それだから、ただ表面《うわべ》だけのことで、他人からロマンティストとして見て貰えるような、或る種の作法とでも云ったようなものを学びたいのですが……』
『ははあ! なる程。併し、何をお教えしたらいいのでしょう。名刺をこしらえて、名前の肩にロマンティスト[#「ロマンティスト」は太字]とゴジックで刷り込む案は如何です?』
『他に、お心づきのことはないでしょうか?』
『一向に! 思うに、ロマンティストは速成教師として最も不向きなのでしょう。』
僕は断念することが出来なかった。
『万事あなたの真似をすることを許して頂けないでしょうか?』
『やって御覧なさい。僕もそうしている中に、何か心づく点があるでしょうし、出来るだけ相談に乗って差し上げます。――兎に角、ロマンティストの精神から、信義と友愛とを失うわけには行きませんからね。』
それから、H――氏が私の生活の主人となった。
H――氏は、書架も書籍も持っていなかったが、私はロマンティストの思想について概念的な知識を得たいと考えたので、何か適当な参考書はない
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