っかけを作ろうと思いました。そこで、彼女は青年が泳ぎに行くような時を見計らって、彼女も海へ行って、青年の泳いでいる付近で溺れて助けて貰おうかと考えたのですが、その計画は実行されるに至りませんでした。青年は泳ぎが非常にまずくて、殆ど腰ほどの深さのところばかりに立っているのに、彼女は五|哩《マイル》遠泳位はやれそうな腕前なのでしたから。
青年は、砂の上に寝ころんで、はるかに、赤と青とのだんだら縞の水着を着た彼女のか細い腕が、抜き手を切って波と戯れているのを、不思議そうに見物していました。
*
「――失礼ですが、お嬢さん……」
到頭、それでも、或る晩のことヴェランダで青年の方から、こう彼女へ声をかけました。
*
「――失礼ですが、お嬢さん。……あなたに、もしや、お兄さんが一人おありになりはしませんでしたろうか?……」内気な青年は、極めておどおどとして口籠りながらそういいました。
「兄※[#疑問符感嘆符、1−8−77] 兄があったかとおっしゃるのでございますか。ございましたわ! ええ、ええ。それは非常に優しい兄が一人ございました……」と彼女は、びっくりしながらも
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