、喜び勇んでそう答えました。
「そうですか。それで、そのお兄さん、今は御一緒にはいらっしゃらないのですか?――」
「はあ、――もう、別れ別れになりましてから――そうでございますね、かれこれ十五年にもなろうかと存じます。何分私なぞまだあまり幼い時分のことだったものでございますし、一体どんなひどい家庭の事情があったものでございますやら、その後誰も聞かせてくれるものもございませんし、今もって全く判らないのでございますが。……ですが、その兄が、どうかしたのでございますか?」彼女は顔を輝かしてそうきき返しました。
「十五年?――そんなに経ってしまったのでは、もうまるでおもかげさえもおぼえてはいらっしゃらないかも知れませんね。……いや、実は、あんまりはっきりとしたことを最初からお受合いするわけにもまいらないのですが、少しばかり友達から聞かされましたので……」
「とおっしゃいますと――あの、兄らしいものでも、どこかにいるのでございましょうかしら?」
「まあ、そうなのです。詳しいことを申し上げないとわかりませんが、……大分へんな話なのですよ。それできっと御信用なさらないだろうと思うのですけど。」
「信
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