ているところ、ちょっと見たら、中学生の昼寝じゃないかと思ったわ」
「敵の軍勢がいないんだよ」
「敵がいない戦争なんてあって?」
「本当は、兵隊どもは自分たちの敵を見つけることが出来ないのだとも云える。もっとも、たった一度、我軍のタンクを草むらの中から覗《ねら》っている野砲があったので、一人の勇士がタンクを乗り捨てて手擲弾《しゅてきだん》でその野砲を退治してみたところが、それもやっぱり敵ではなくて我々と同じようなヘルメットをかぶった味方の兵士だった。それでね、大騒ぎになって、いろいろ調べてみると、莫迦《ばか》げた話じゃないか、それは何でもトルキスタンあたりの或る活動会社が金儲けのために仕組んだ芝居だったのだ」
「カラコラム映画会社に違いないわ」
「そうかも知れない。つまり、そうすると我々神聖義勇軍たるものは最初から、他人《ひと》のストライキつぶしと、そんな映画会社の金儲けのために、だしに使われていたのも同然なんだ。キャメラは始終草の茂った塹壕の中や、人の逃げてしまった民家の戸口の蔭なぞにかくれて、我々の行動を撮影していたらしい。そして、時々そんな思い切った出鱈目《でたらめ》な芝居をしては
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