「あんたグレンブルク原作と称する『時は過ぎ行く』見た? カラコラム映画――そんなのあるかな」
「いや、兵隊は活動写真なぞ見ている暇はない。それが、どうかしたのかい?」
「ううん、ただその活動はね、お客へ向って戦争へ行け行けって、やたらに進軍ラッパを吹いたり太鼓鳴らしたりしているの。そしてね、戦場ってものは、みんなが考えてるような悲惨な苦しいものではなくて、案外平和で楽でしかも時々は小唄まじりのローマンスだってあると云うことを説明しているの」
「はてね?」
「それでね、その癖、何のために戦争をするんだか、正義のためにとは云うんだけど、何が正義なんだかちっとも判らないし、第一敵が何処《どこ》の国やら皆目《かいもく》見当がつかないんだから嫌になっちゃうんだよ」
「そいつは、愉快だね。僕だって、今度の戦争ならば全くそうに違いないと思ったぜ」
「そう。そう云えば、あんたから送って来た戦地のスナップショット、どれもこれも、とてもお天気がいいね。それに塹壕《ざんごう》の中には柔かそうな草が生えているし、原っぱはまるで芝生のように平かだし、砲煙弾雨だって全く芝焼位しかないし、あたい兵隊が敵に鉄砲向け
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