『敵兵の暴虐《ぼうぎゃく》』とか何とかタイトルをつけて、しこたま興行価値を上げようとたくらんだんだ」
「つまんねえなあ」と、そこで娘は口を尖らすと、紅棒《リップスティック》を出してその唇を染めながら、ハンドバッグの鏡を横目で睨みました。
「戦争が世界の流行だから、そう云うことになるんだ」オング君も肩をすぼめて見せました。「みんなみんな金さえ儲ければいいんだよ。悪い世の中じゃないか。……その紅、何てんだい?」
「ブルジュワ・ルージュ。あら、洒落じゃないのよ。本当にそう書いてあるんだもの……それで可哀想に、あんたみたいな、お母さん子までが、そんなに真黒になって、戦に行くなんて、堪《たま》らないね」
「義勇軍だから、僕は自ら進んで行ったんだ。ひどい迷信さ」
「あたい、『ビッグ・パレード』だの『ウイングス』で随分教養のある青年達が、ただ兵士募集の触れ太鼓を聞いただけで、理由もわからず暗雲《やみくも》に感動して出征するのを見て、男って野蛮人だなあと思って呆れかえっちゃった」
「それで大入満員だから困る。世界中の一番兵隊に行きそうな何百何千万と云う見物を煽動したり、金を儲けたりするのは、その大勢の
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