な色彩をした風船に乗っていたりするものではない――と私は、心のうちでひそかにくやんだことであった。

 5

 開期三ヶ月の博覧会も終りに近づくと、季節はだんだん梅雨時へかかって来た。雨が降れば勿論軽気球は上がらなかった。そして私はしめった不健康な家の中で、まるで羽衣を失った天人のように、みじめに圧しつぶされて、所在なく寝ころんでいるばかりであった。
 朝の中は薄日が当っていても、午後になって欝陶しいつゆ空に変って、やがてビショビショと降り初めると、軽気球は折角出かけて行った私共の前で悲しくつぼんでしまうようなことさえ幾度かあった。私と西洋人とは、諦め難く、永い間どんな小さな雲の切れ目でも見付け出そうとして待ちあぐんだ果に、いよいよ本降りになった雨の中をお互に慰さめ合うような苦笑を洩しながら肩をならべて帰った。
 彼がスフィンクスであったにしても、私共はともかくその位の親密な体裁にはいきおいならざるを得なかった。ミハエル某と云う彼の名前も私はおぼえた。
 その日もひどく覚束ない空模様で、天気予報も雨天を報じているのに拘らず未練がましく出かけて行った私が、電車を降りた時にはすでに、霧雨が
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