った。
西洋人の方でも、私を訝しく思ったに違いない。一日、西洋人はためらいながら口を開いた。
――毎日同じ時間にお目にかかりますね。」
――為事《しごと》の都合でこれ以上早くは来られないのです。」と私は答えた。
――軽気球をそれ程お好きですか?」
――そうです。軽気球から眺めた景色はどんな上手な風景画よりも美しいと思います。」
――天国により近いせいで、地上のすべての汚れが浄められて見えるかも知れませんね。」そう云って西洋人は微笑した。
私は思い切って訊き返した。
――それでは、あなたの毎日探して居られる秘密について教えて下さい。」
すると西洋人は忽ち狼狽した。
――いやいや、これだけはうっかりお話しするわけに参りません、そう、しいて云うならば地上の宝です。は、は、は、は……」
彼はそれからふいと慍ったような顔をして、くるりと背中を向けると、再び双眼鏡を覗きはじめた。
だが、その後間もなく、私は途方もない不徳な誤解を、西洋人に対して抱いていることを知るに致った。
軍事探偵なぞと云うものは、内気なツルゲエネフのような顔をしていたり、またそんな子供の運動帽子みたい
前へ
次へ
全15ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
渡辺 温 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング