なくなってしまったわ。」
或る日、その娘は、軽気球から降りて帰りかけた私をとらえて、そう云った。
――それは、君に会いたいばかりにさ。」と私は答えた。
――まあ! 憎いことを仰有るのね。でもあたし、はじめは鳥渡そんな気がしないでもなかったけれど。ふ、ふ、ふ、ふ……。」
娘は蓮葉な声で笑いかけたのを周章てて呑み込むと、居住いを直しながら、低声《こごえ》で私に注意した。
――おや、あなたの相棒がいらしたわよ。」
この上天気に雨傘を携えた丈の高い西洋人が私共の方へ近づいて来た。西洋人もまた軽気球に乗りに来たのであった。
私は彼の雨傘とそれから灰色の立派な顎髯とに見憶えがあった。私はびっくりして娘に訊ねた。
――あの異人さんも、時々来るのかね?」
――毎日いらっしゃるわ。だから、あなたの相棒だって、そう云うの。」
――はてな?」
――ことによると、やっぱりあたしを張ってるのかもわからないわね。ふ、ふ、ふ、ふ……。」
――僕は、あしたから、あの異人さんと一緒に乗せて貰うよ。」と私は云った。
私は帰る途々、西洋人について仔細に考えてみた。そう云われればなる程、恰度この位の
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