の雲のように易々と、停っていられると云う道理は、人生の曙に於いて、はじめて私が直面した記念すべき謎であった。
二十年も過ぎて、乗物の風船が、再び現われた。
私は久しい宿望を叶えられる喜びのあまり、お天気の日ならば必らず博覧会の門をくぐった。
風船は、併しちっとも人気がなかった。
私の幼い心と共に最早や時世から取残されてしまったものと見える。一月と経たない中に、日にたった数人のお客しか呼べない場合があった。
私はそれで、それをば幸いに、殆ど自分がその風船の主ででもあるかのように、寛いだ気持で空の楽しい一時間を費すことが出来た。
地上五百|米突《メートル》の高さから見晴した文明都市の光景は、それこそ一番素晴らしいパノラマの眺めである。凡そあらゆる速力と物音とを失って、麗らかな日ざしを宿したうす塵埃《ぼこり》のかげろうの底で、静かに蠕動するそのたあいもない姿を、私はこの上もなく愛した。
2
私は搭乗券を売る娘と顔なじみになった。
私たちはお互に挨拶をした。
――正直なところ、なんだってそう毎日々々、こんな風船に乗りにいらっしゃるのだか、あたしにはもうすっかり考えようが
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