覧会の閉会の日は、珍しく日本晴のお天気であった。晴れさえすれば、もう真夏の紺青の空が目にしみて輝き渡るのである。
軽気球も千秋楽ではあるし、久し振りで、だんだら染の伊達な姿を景気よく天へ浮かべた。
私と西洋人とは軽気球の上で握手した。
――もうすっかり諦めてはいたのですが、一番最後の日になって、こんなに滅法すばらしく晴れ渡ったのを見ると、私はどうも今日こそはひどく奇蹟的な幸運に恵まれそうな気持を感じました。」
西洋人はサックから双眼鏡を取り出しながら、そう去った。
――若し、本当にそうだったら、私だってどんなにか嬉しいでしょう!」と私は答えた。
西洋人は平常の倍も亢奮して、双眼鏡を覗いた。
ところが! 到頭その奇蹟がはじまったのである。
――おお! いました、いました!」と西洋人は突如叫んだ。「あすこに見える。正しく彼女だ! 髪や着物迄何一つ異いはしない。今度こそ見逃すものか!」
私も遉にギクリとした。
――いましたか※[#疑問符感嘆符、1−8−77] ほんとうですか? 何処にいました?」
ミハエルは感動のあまり、我を忘れて籠から半ば体を乗り出した。私はおどろいて
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