た。私はあらゆる努力を払って彼女をもう一度探し出そうと固く決心しました。それで瀬戸内海行も中止してその日以来、縁あるものならば永い間には再び会えぬ筈はないと信じて、M百貨店の屋根で、その日と同じ刻限には必ず見張りに立つことにしたのです。が、考えて見れば、彼女の姿の見えたところが上野の方向に当っていたことだけは確なのだから、これは博覧会の風船の方がずっと有利であると覚って、早速計画を変更して軽気球へ乗りました。けれども一月経っても、二月経っても、私の果敢ない恋が何の報いられるところもなかったことは御存知の通りです。博覧会はいよいよおしまいになります。今更M百貨店の屋上へもどる勇気も失せてしまいました。私の恋としたことがたとえばシベリアの大森林の中へ落下してそのまま落葉の底深く永遠に埋もれてしまった隕石の運命の如くに、よくよく不仕合せなものかも知れません。」
 西洋人はすすり泣きに泣いた。
 ――それは、それは……」とそう云って私もつい悲しくなった。
 私はよろめきながら周章てて立ち上って女の子を呼んだ。
 ――おけいちゃん、おけいちゃん! えくぼウイスキイのお代りじや!」

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 博
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