銃声ともろとも仰のけざまにぶッ倒れた時には、実にすさまじい勢で打ち倒れたのですが、私たちは鳥渡、本気にしませんでしたよ。何時の間にか、そのピストルには何人かの手に依って故意に実弾がこめられてあったのですね。誰がやったものやら未だに判りませんが、何しろ二間とははなれないで射ったのですから堪りませんや。大ていの心得のない奴だって外しっこありません。可哀相に――中根は僕の身代りに立ったのです。』
 ここ迄云うと言葉は途切れた。そして到頭、一層暗くなっていたその眼からは涙がぽとぽとと流れ出したのであった。
 西村はすっかりたじたじとなった。這入って来た時はひどく陽気な顔をしていたくせに、涙なんぞ滾して、柄にもなく案外感情家のこの活動役者は、すでに充分こっちを戸惑いさしておきながら、この先更に何を云い出すか解らない――
『身代りに? ――わからない。』
『左様――たしかに中根は僕の身代りに立ったのです。と云うのは、恰度その時の場面は僕の扮したある青年が順子の扮しているある若い女に嫉妬のためピストルで撃たれると云う筋なので、脚本通りに演れば無論僕は本当に撃ち殺されていたのです、所が、その時ヒョイと、しかも中根自らの思いつきで、射撃する瞬間の順子の大写を其処に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]むことになったのでした。哀れな中根は自分で引金をひいたも同然、見事に額の真中を射ぬかれてしまいました。』
『併し……ただそれだけの事で、どうして君の命をねらう曲者がある――と仰言るのでしょう? ――どうしてそんな事を云われるのです。ほんの何かの不幸な偶然から、そのピストルに実弾がこもっていたのかも知れないじゃありませんか。』
『いいえ。中根の心の中からこそ恐しい偶然は飛び出しましたけれど、ピストルには、少くともピストルだけには如何な意地の悪い偶然だってひそみ得るスキはなかったのです。その一時間程前に、僕自身がその武器の空弾の装填をしたのですからね。今はともかく、その時分はたしかに僕は未だ自殺したいなんて不仕合せな考を起してやしませんでしたよ。が、そんな事よりも一層たしかな証拠は、その前夜かかって来た電話なのです――』
『ほう! 電話※[#疑問符感嘆符、1−8−77] ……フム。』と西村は少からずつりこまれたかたちで、ぐいと椅子を乗り出して、相手の眼の中を
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