も廻って、大いに飲んで飲んで、飲みつぶれて、あのローマの意気な貴族ペトロニューの様にドラマティックな最期を遂げたいと思っていますよ。はッはッはッはッ。』
と、清水はひどく愉快相に哄笑ってみせたのである。
『いや、ところが、お気の毒ですがそれも叶いますまいよ。』
『え※[#疑問符感嘆符、1−8−77] 何と仰言る?……』
『つまり、君の死はもう、思いのほか間近に的確に迫って来ていたと云うことですよ。』
西村は落ちつきはらった調子で静かにこう云った。
『?……』清水は流石に狼狽してあたりを見まわした。
『その証拠は――』西村はそう云いながら、立って部屋の一隅に置かれた典雅な書棚の抽斗を開けて、しばらくゴソゴソやっていたが、※[#「身+応」、42−5]て、ひとふりの抜き身の支那型の短剣を取り出して来た。
『これですよ……』
『おお※[#感嘆符二つ、1−8−75]』清水は突き出されたその短剣の※[#「木+覊」の「馬」に代えて「月」、第4水準2−15−85]《つか》に目をやると、うめいた。其処には白く、菊花を彫った象牙の飾りが嵌められていたのである……
いきなり、清水は椅子を蹴たおして窓口にかけよった。が、そこを追いすがって後から苦もなく羽交いに抱きかかえると、ズブリ、ひとつ胸元を刳ぐっておいて、さて、西村敬吉は心持青ざめた顔に薄笑いを浮かべて云った。
『清水君。どうも仕方がない。これは我々「不正を悪くむ紳士方」の集まりである象牙菊花倶楽部の正当なる報酬なのだからねえ。もちろん、君が麻雀で大負けをして金に窮した結果、我が善良なる僕胡を欺いて君の宿に呼び寄せて惨殺し、そして彼の持っていた鍵を奪って倶楽部の象牙の牌を盗み出した、と云う事実に対してさ。君をうまく比の室に追い込んでくれた坊城は云うまでもなく僕と同様倶楽部員の一人だ。だから撮影場のピストルに悪戯をしておいたのは無論彼だろうね。わかったかい……併し、流石の僕も君には感心させられたよ。先ず、おそろしく覚悟のいい事にね。それから、そんなに覚悟がよくていながら、おそろしくどっさり嘘を並べること――ひょっとすると僕までが、うっかりオヤ! こいつァ一体何処から何処までが本当で、何処から何処までが嘘なのかしら――と、一寸けじめがつき兼ねた程の巧みな嘘を、さまざまと小説的才能を以て並べたてることだ。お蔭さまで、ずいぶんと面白い物
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