し、僕はその外にも、約その二十倍位の現金を――麻雀で儲けた金を持っていたので、とにかくあっ晴れ一っぱしの海外成功者の様な気になって、一年振りかで再び懐しい東京へ戻って来たのでした……』
と、ながながと物語って来た清水は、ここでしばらく語を切るとさて、ひとつ重い溜息をもらしたのである。
『それで、君はそこでもその郁と云う支那人がつまり、君からサムライの衣裳を貰ったばっかりに君の身代りに立ったと云うのですね。だが、それではまたどんな理由で何人に、君は命をつけねらわれなければならなかったのです? 未だその点、その最も肝心な点は一向はっきりとしていない様ですけれど……』と西村は亢奮のためか、頬を少し上気させながらもどかし相に訊ねた。
『どんな理由って、あなた。それは勿論、象牙の牌の祟りですよ[#「祟りですよ」は底本では「崇りですよ」]。』
『象牙の牌?……』
『そうです。だから先刻僕は、麻雀に僕の命を賭けてしまったと申し上げたじゃありませんか。その象牙の牌は、今になって考えてみると、それを僕にくれた胡のものではなかったのでした。彼はそれを倶楽部から盗んで僕にくれたのです。そしてそれは倶楽部にとっては、非常に貴重な品物であったに違いないのです――例えば、むろん牌その物も甚だ高価な得がたい品には違いないのだが、それよりもその裏面に刻まれてあった象形文字が何かの重大な秘密文であったかも知れない様な――で若し左様であったとしたらば、それを持ち出した僕に倶楽部から死刑の宣告が下るのは疑もないことなのです。僕はあの倶楽部が、どの位まで恐しい、どの位まで大きな力を持っているかをあまりによく知りすぎていますからね……胡の哀れな運命を見てもわかるじゃありませんか。』
『いや、清水君! 併しそう君みたいに勝手な因縁ばかり結び付けちまえばたまらない。疑心暗鬼を生ずって奴でね……第一、おかしいじゃないですか。若し君の云う通りだとすると、どうして最初の、「スペエドのジャック」の電話と今度のそれとの間に七年なんて云う長い隔があるのですか。』
『なに、それには不思議はないのです。何故ならば――彼等はつい最近までニューカルトンの舞踏会の夜殺した郁少年を全く僕だと信じて疑わなかったのです。そのために、僕は七年の間日本で安穏な日を送ることが出来たのでした。が、決して悪魔の奴は僕を見捨てていはしなかったのです
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