しいもんだな。」と主人らしいのが感心したように云った。
すると、水兵服の娘は突然顔を上げて井深君を見たのである。恰も井深君が其処に見物人たちの後から覗き込んでいるのをはっきり知っていたかのように。――(けれども、部屋の中は明るくて戸外は暗いのだから、井深君の方では見たと思っても先方では見えなかったかも知れない。まして井深君が其場に居合せたことに気の付こう道理なぞはないのだが、何しろあまり突然に、ぴったり二人の眼が出会ったのだ)青ざめて、眼が先の広がった睫毛まで泪に輝いて、可愛らしい輪廓をもった顔である。井深君は、そこで危く声を上げようとする程驚いた。突然見つめられたためばかりではない。井深君は、実に其処に自分の恋渡っている少女と他ならぬ少女を見出したのである。――いやいや、こんな風に不器用な云い廻しは決して許されない。第一それではこの話は話にならなくなってしまう……。上品な額や、花車《きゃしゃ》な頤《おとがい》や、さては振分け髪を一束づつ載せた細りとした肩のあたりと云い、瓜二つどころか全く豆と豆との如くと云っても足りない位である。こんなにもよく似た顔が二つ以上も、この世に存在して差閊
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