少女
渡辺温

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)中山帽子《ダービイ》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「紛失《なく》くしたと」はママ]

〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ
(例)〔Ich stand in dunkeln Tra:ummen und〕
アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください
http://aozora.gr.jp/accent_separation.html
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 井深君という青年が赤坂の溜池通りを散歩している。
 これは一昔若しくはもっと古い話である。今時の世の中にこんな種類の青年を考えることはあまりふさわしくない。
 中山帽子《ダービイ》をかぶって、縁とりのモオニング・コートを着て、太い籐の洋杖《ステッキ》を持って、そして口にはダンヒルのマドロス・パイプを銜えている。これが井深君の散歩姿である。
 井深君は銀座の散歩の続きか、或は活動写真を見た帰りか何かで、その春の夕暮れ時、あの物静かな通りを赤坂見附の方に向って、当もなくただ一人でぶらぶら歩いていたものと見える。日が落ち
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