らためて白い寝床に寝かされて、晃一の到着を待った。
ところが、何時でもそれに決まっている正午の汽車に、晃一の姿は見えなかった。そしてその代りに停車場へ出迎えに行った人々が空しく帰って来るよりも、一足先に電報が届いた。
ツゴウワルシ アスユク――としてあった。
それでうろたえた人々は直ぐに至急電報で打電し返した。
晃一は終列車でやって来た。
――入札があって、遅れた。」
冬の厚いトンビの襟を立てて、唇を慄わせながら、迎えの者にそう云った。
幸子の体はもうすっかり傷口を繃帯して、綺麗に拭き浄められてあった。晃一は冷めたい妻の顔に頬ずりして、泪にくれた。
5
葬式を済ましてから、晃一は仕事を人に任せて、もう一度別荘へ戻って来た。暫く静かに休養したかったし、また一つには幸子が最後の日迄起き伏しをしていた部屋で、遺品《かたみ》の品々の間に、愛しい妻の面輪をいつくしみ度い心からでもあったろう。
旻はそれ以来すっかり衰弱してしまって、もういくばくも持ちそうにもなかった。併しそうなっても気持だけは割合に冴えていた。
或る雨降りの、急に冬がやって来たかのように冴え々々とする晩の
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