た時、心の中に復讐を誓った。まさか殺そうとまで計画しなかったけれども、そんなに義理人情を弁えない兄夫婦であるならば、その無節操な嫂《あによめ》に対して敢えて不倫を行ったところで、自分の良心に恥ずべきところは些もない筈だと考えて、窃に機会を待つことにした。これは今になってみると如何にも卑劣極まる考え方に違いないのだが、生れつき小心な上に病気のお蔭で一層卑屈になった根性で、どうにもならなかったのだ。兄さん達が結婚後二人連れで、僕を見舞に来てくれる度毎に、睦しい夫婦仲を見せつけられて、僕のさもしい情慾は愈々残酷に鞭うたれた。僕は焦せりはじめた。けれども、幸子さんは、僕が思った様ないたずら女ではなかったらしく、そんな機会はいつかなやって来そうもなかった。その中に僕の病気は次第に悪くなった。僕の罰当りな悪だくみそれ自身が、病勢を募らせる有力なる原因だったことは云う迄もない。秋口に入って、僕が寝起にも自由を欠く程の有様になってから、幸子さんは泊りがけで看病に来てくれたが、併しそれと同時に、最早や単に情慾なぞと云う生やさしいものではなく、もっと執拗な純然たる復讐の形の下に、たとえ破れかぶれであろうと
前へ
次へ
全23ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
渡辺 温 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング