『やあ、金ピカだなあ! 金ピカのグレタ・ガルボオですか。迚も素晴しいや。』と、雄吉君はエミ子の姿を眺めて、大袈裟に驚いてみせました。彼は、エミ子さんが、何だって自分をこんな風に優しい方法で思い出して誘ってくれたのか、全く嬉しさに燥ぎきっている様子でした。
『お雄坊を世間の知らない人が見て、あたしの旦那様だと思ってもそう不似合いじゃない位、立派にしていてくれなくちゃ駄目よ。』
 エミ子さんは、鳥渡ばかり青い眼ぶたを伏せるようにして、そう云いました。
『|よろしいです《ビアン》。|お嬢さん《マドモアゼル》!』雄吉君は手をこすり合わせながら、お辞儀をしました。
『あたしが、お嬢さんだって……奥さんと云って頂戴。……あたしの靴なんか揃えてくれなくたっていいのよ。男の癖にみっともない……』二人はこうして、江の島へ出かけて行きました。

 いいん いん いん

 わざと小田急には乗らずに、東京駅から鎌倉へ行って、鎌倉から幌を取らせた自動車で稲村ヶ崎を抜けて、海辺づたいに真直ぐに、江の島へ向いました。
 おそらく一二時間先に、文太郎君とその恋人とが江の島に着いているとすれば、まず人目の少い片瀬から七
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