え、今晩は随分あたし拙かったでしょう。ドリアン。』『おそろしく! おそろしく拙い。まるでなってやしない。あなたは病気ではなかったのか。あなたはそんな平気な顔をして。僕がどんなに苦しい思いをしたか……』『ねえ、ドリアン、解って下さるでしょう。』と娘は微笑んで云うのであった。『あたし、これからも、決して上手な芝居はしないのよ。何故って、あたし、あなたにお会いする迄は芝居だけがあたしの本当の生活だったのよ。そして、ベアトリチェの喜びはあたし自身の喜びであり、コルデリアの悲しみはとりも直さずあたしの悲しみだったの。絵具を塗った画割があたしの住む世界でした。ところが、そこへあなたが美しいあなたが現われて、あたしにはじめて影ではない真実の物の姿を見せて下さいました。』
ドリアンは顔をそむけて嘆息した。
『あなたは僕の恋を殺してしまった。僕があなたを愛したのは、あなたが僕の幻想を呼びさましてくれたからだ。大詩人の夢を再現し、その芸術の影に形と実質とを与えてくれたからだ。それをあなたは、見事に打ち壊してしまった。何と云う浅墓な愚かな娘であろう。僕はもう再びあなたも、あなたの名前さえも思い出すことはあ
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