あらためた。ところが彼が見とめ得たのは二十才にも満たない紅顔の美少年だった。水夫は愕然とした。『旦那、どうぞ許しておくんなさい。私はとんでもない間違をするところでしたよ……』
17[#「17」は縦中横]
『ピストルを蔵って家へ帰り給え。さもない時には君の為にならないぜ。』ドリアンはそう云うと、踵を返して静かにその場を遠ざかって行った。ジェームス・ヴェンは恐しさのあまり甃石の上に立ちつくした。彼は爪先から頭の天辺迄慄えていた、しばらくすると其処の濡れた壁にへばり着いていたような黒い影が明るみの中に現われて、こっそりと彼に近寄って来た。それは阿片窟の酒場にいた女の一人であった。『何故彼奴を殺さなかったんだい?』と彼女は声をひそめて云った。『妾はお前が彼奴をつけているのを知っていたんだよ。何と云う馬鹿だろうね、お前さんは。殺せばいいのにさ、彼奴は何しろしこたまお金を持っている上に、またひどい悪なんだからね。』『人違いだ』と彼は答えた。『俺は金なんぞは欲しくねえ。俺の欲しいのは男の命だ。そいつはどうしたってもう四十近い年輩の筈だ。あんな小僧っ子じゃねえ。だが、血を流さなかったのは全く神様
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