てはくれまいか。』『お望みとあらば、画いてもいい。但し、それには矢張り君自身がモデルになってくれなければいけない。』『それは困る!』画家は吃驚《びっくり》した。『君は僕の画いた絵を好まないとでも云うのか? あの絵はどうした? どうして、君は、その様な覆いをかけて置くのだ? 見せ給え。』
 ドリアンは恐しい叫びを上げて画家の前に立ち塞がった。『いけない! 断じて! 強いて見ようと云うならば僕達の間はもうこれ迄だ!』
『ドリアン!』
『黙り給え!』ドリアンは頑強に拒んだ。
 そして彼はその日の中に、その肖像画を階上の廃れた勉強部屋にこっそりと移してしまった。

 11[#「11」は縦中横]

 幾許かの歳月が流れた。併しドリアン・グレイの容色の煌《かがやか》しさはさらに衰えを見せなかった。そして倫敦中の社交界や倶楽部なぞに於て、彼の身の上に関する最も不名誉な怪しむべき噂を耳にした人々でも、一度彼を見てはその誹謗を信ずることをやめた。彼こそは常にこの世の如何なる汚れにも染まらずにいるように思われたからである。彼の姿は人々の心の中に曾ては自分たちも持っていたところの純情を思い出させた。ドリアン
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