当違いでね。と云うのは、お恥しい話だが、私はその頃或る事情で甚だお金に困っていた。それで紙入にお腹を空かせて置くのも私の性分でへんにみっともない気がしたので、新聞紙をお紙幣の大きさに切ってどっさり入れて置いたのだよ。本物のお金と来たら五円も入っていなかったろう。……いいかね。そして、それに引きかえて、二十銭位だろうと思ったネクタイピンは後でしらべてみると、どうして立派な物で大丈夫五十円の値打はあると云う品物だった。……尤もその女の子だって、何れもともとは何処からか不当な取引で手に入れたのだろうから、それ程高価な品物とは気が付いていなかったかも知れないのだが。……それにしても、私はどうも気の毒でならないのだ。私にはどうしてもあの女の子がそう大外れた悪者とは思えないのだがね。あんな無邪気らしい――と云っても何分暗かったので顔は到頭はっきり見る事が出来なかったのだけれども。ひどく冷めたい手をしていた事だけは覚えている。一体手の冷めたい人間と云うものは、西洋の小説なぞにもよく書いてあることだが、たいてい内気でおとなしいものだ。屹度付近の物蔭にあの子を操っている悪い奴が隠れていたのに違いないと思
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