二人が仲よく肩を押し並べて彼等を迎えた。
「ねえ、Aの奥さん。あなた方の新家庭の飾りつけは、もう今朝の中に、あたし共がして置きましたわ――」とBの細君に向って、Aの細君が云うのであった。
「まあ!」
 Aの家の中には、これ迄そこに見慣れた女主人の持ち物と入れ代りに、もとBの家に飾ってあった女の道具が残らずキチンとそれぞれの場所に、新しい女主人を待ち受けていたではないか。
「ねえ、Aの奥さん。うちの先生はあなたとAさんと、タンゴ・ダンスを踊るのが見たいんですって?」
「まあ、いやですわ。Bの奥さんたら。あたしたちこそ、あなたの先生の優しい助手振りを拝見させて頂きたいものよ。」
 と云う工合に、彼女たちの接頭詞が互に入れ違ってしまったのである。
「どうだね、これで魚は水に、蝶は花に棲めるわけだ。君も満足だろう。」とBは親しげにAの肩を敲いて云った。
「ああ! 君には何とお礼を云っていいのかわからないよ。」Aは古い友人の親切に全く感激していた。「こんな僕の我儘をこれ程まで寛大に許してくれるなんて!」
「我儘を許す? 莫迦云っちゃいかん。これが正しい生活さ。我々は、ちょっとした間違いでも、気が
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