のだ。不具者のもちまえで、彼女は頑に、親の教えた過ちを信じて改めなかった。
 姉は幾度も私の脛を撫ぜて、幾度も首を縦に振った。
 ――姉さん。どうしたの?」と私は訊ねた。
 姉は長い間に、私と姉との仲だけに通じるようになった。精巧な手真似で答えた。
 ――ワタクシ、オマエガ、キライダ!」
 ――なぜです?」
 ――オマエハ、モウ、ソレヨリ、オオキクナッテハ、イケマセンヨ。」
 ――なぜです?」
 ――ワクシハ、オマエト、イッショニ、クラスコトガ、デキナクナルモノ。」
 ――なぜです?」
 姉は私の硯箱を持って来た。私は眼に一丁字もない彼女が何をするのかと、訝《あやし》んだ。ところが姉は筆に墨をふくめて、いきなり私の顔へ、大きな眼鏡と髯とをかいた。それから私を鏡の前へつれて行った。
 ――立派な紳士ですね。」と私は鏡の中を見て云った。――
 ――ゴラン!ソノ、イヤラシイ、オトコハ、オマエダヨ。」
 姉は怯えた眼をして首を縦に振った。
 私は姉をかき抱いて泪ながらに、そのザラザラな粗悪な白壁のような頬へ接吻した。姉は私の胸の中で、身もだえして唸った。

 3

 姉は、夜更けてから、血の気
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